軍学共同反対連絡会声明(2017年4月1日)

軍事研究に関する日本学術会議の2017年声明の意義と今後の課題

3月24日、日本学術会議は「軍事的安全保障研究に関する声明」(以下、新声明)を発出した。日本学術会議は、2015年度から始まった防衛装備庁による「安全保障技術研究推進制度」(以下、「推進制度」)が大学等の研究機関(以下、大学等)の研究や教育に及ぼす影響を検討するために、昨年6月、「安全保障と学術に関する検討委員会(杉田敦委員長)」(以下、委員会)を設置した。委員会は11回に及ぶ審議と学術フォーラムでの市民との対話を経て新声明案をとりまとめ、それを日本学術会議幹事会がほぼ原案通り承認し、日本学術会議声明とすることを決定した。以下、新声明についての軍学共同反対連絡会の見解を表明する。

1)新声明は、過去の2つの声明(1950年「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」、1967年「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」)の背景には、「戦争協力への反省」と再び同様の事態が生じることへの「懸念」があったと捉え、「学術と軍事が接近しつつある」今、軍事研究が「学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認し、2つの声明を継承する」とした。科学者に、現在の状況の中で軍事との緊張関係が高まっていることへの自覚を促し、2つの声明の「継承」を明確に表明した点は極めて重要である。

2)新声明は、防衛装備庁が「推進制度」をテコに科学者を軍事研究に動員しようとしている現在、同制度がもたらす結果と運営上の問題に焦点を当て、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と明記した。これは研究者や大学等が応募すべきではないことを実質的に表明したものである。

3)新声明は、研究成果が軍事目的に転用されないための具体的な手立てを提起している。新声明と一体のものである委員会の「報告」で明記されているように、資金が軍事組織から出るものは「基礎研究」と称していても「軍事的安全保障研究」であるとし、その入り口において「適切性」を大学等が審査する制度を作ること、また学協会等がガイドラインを設定することを求めている。そして科学者コミュニティが社会と共に議論し考え続けていくべきこと、そのために日本学術会議が率先して検討を進めることを表明している。

4)新声明はさらに、学術の発展に必要なのは、「科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である」としている。研究費不足から防衛装備庁の「推進制度」につられがちな研究者もいる中で、本来、科学者コミュニティが取り組むべき課題を明確にしたことも重要である。

5)防衛装備庁が2017年度予算で「推進制度」に110億円もの巨費を投じ、金の力で研究者を軍事研究へ動員しようとする中、この新声明を実効あるものにすることが急務である。そのために連絡会は次のことを訴える。
4月13日〜15日の日本学術会議総会において、新声明の意義を高く評価し、さらに中身を深める議論を繰り広げ、総会の総意として新声明を支持すること。また、「推進制度」が学術に及ぼす負の影響を真摯に考え、各大学等でどのように対処するかの議論を開始すること。
新声明の意義を広く社会的に明らかにするために、日本学術会議が全国各地でフォーラムなどを行うとともに、日本学術会議の常設委員会などでこの問題を継続して議論していくこと。
各大学等で、また関連する学協会で、この新声明の趣旨を全構成員に周知し、3)の審査制度やガイドラインが具備すべき内容について検討を始めること。その際、執行部周辺だけで決めるのではなく、それぞれの組織において全構成員の議論が反映しうるように民主的に行うことはもちろん、さらに広く市民の声も配慮すること。
この声明で示された学術研究への「負の影響」を考えれば、研究者は「推進制度」に応募するべきではない。すでに2017年度の募集が始まっているが、この新声明の精神に則って各大学等における審査制度や学協会によるガイドラインが策定されれば、大学等からの応募を認めることはありえないはずである。

軍学共同反対連絡会は、新声明をもとに軍学共同反対の声をさらに広げ、防衛装備庁の「推進制度」の撤廃をめざし今後も力を尽くしたい。

2017年4月1日 軍学共同反対連絡会 (共同代表 池内了、野田隆三郎、西山勝夫)