防衛装備庁は8 月30 日に2019 年度の安全保障技術研究推進制度の新規採択研究課題を発表した。57 件の応募の中から、大学2 件、公的研究機関7 件、企業等7 件の16 件が採択となった。種別では大規模研究課題(タイプS)が3 件、小規模研究課題(タイプA)が7 件、小規模研究課題(タイプC)が6 件である。このタイプC の1 件は、山口大学のA 教員が研究代表者である「細胞が持つやわらかい車輪の回転メカニズム解明と移動体への応用」という研究課題であり、「模倣したソフトロボットのプロトタイプを製作して実証する」などとしている。
近年、ドローンと呼ばれる小型の無人航空機の軍事的利用が大きな話題となっている。偵察活動だけでなく攻撃機として中近東やアフリカの戦場で利用され、誤爆による一般人の被害が出ており、今後、AI 技術のさらなる活用で深刻な問題と広く認識されているところである。
すでに某国は数百のドローンがAI により互いに協調・連携しながら標的に一斉に攻撃する様子を動画で公開している。また小型化も進み、蜂のように小型で迅速に襲撃するタイプも開発が進んでいるという。航空機だけでなく、地表を気づかれずに接近して偵察・攻撃するタイプも容易に危惧される。
今回の山口大学の研究者の課題は、防衛施設庁の公募要項にある「2019 年度に募集する研究テーマ一覧」の「(4) 生物模倣による効率的な移動体に関する基礎研究」に該当すると推察される。防衛装備庁は基礎研究の先に小型移動体の軍事への応用を展望しているのは上述の昨今の動向から明らかと考えられる。実際、応募者は単なる学術的な基礎研究だけでなく、「ソフトロボットのプロトタイプ」の製作を考えている。
ところで、山口大学では2017 年に「防衛省等から資金提供を受ける研究協力に関するガイドライン」を制定し、2018 年にはこれを一部改正して「防衛省等が公募する研究課題への応募等に関するガイドライン」としている。これによると、
・申請者は事前に学長に申し出る
・学長は審査委員会(当分の間は役員会が行う)を設置する
・許可できるものは、その研究内容が基礎的な研究であることが明確に判断されるもののみとし、軍事目的(防衛目的を含む。)の研究は、認めない。とされている。
確かに、ウェブで公開されている第197 回役員会議事要旨は、5 月20 日に今回の応募を認める決定を下したと記している。しかし、今回の研究課題の詳細や詳しい審査経過や内容は公表されていない。
そこで、一体、役員会はいかなる基準で「基礎的な研究であることが明確に判断される」とし、かつ「軍事目的(防衛目的を含む。)の研究」ではないと判定したのか、審査結果の説明責任を果たすため、ぜひともわかりやすく説明していただきたいと考える。
2019 年9月5日
日本科学者会議山口支部(代表幹事 増山博行)
山口大学教員・研究者有志
連絡先 山口大学教職員組合