軍学共同反対連絡会幹事会声明「軍学共同を一層推し進めることにつながる日本学術会議法改定の動きに反対します」(2023年1月31日)

 6月21日までの会期の通常国会が始まりました。そこでの私たちの課題は、岸田政権が国会の議論も経ず閣議決定した安保3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)と、それに基づく大軍拡予算案を撤回させることです。さらにその大軍拡とも深く関わる動きとして、政府は今国会後半で日本学術会議の独立性を損なう法改定を企んでおり、それを断固阻止することです。それは、日本学術会議の会員選考に政府や産業界などの「第三者」を参画させることを法律に明記するものであり、今後政府が日本学術会議の会員選考や運営に露骨に介入するための改定に他なりません。
 私たち軍学共同反対連絡会幹事会は、日本学術会議の独立性と「学問の自由」を否定し、日本の学術の在り方を大きく歪めるものであることを研究者と市民の皆様に訴え、この策動を阻止するために全力を尽くします。

 2020年10月1日、菅前首相が、日本学術会議が推薦した105人の会員候補者のうち6人を、理由も示さずに任命拒否をするという事件が起こりました。これに対して、全国1500にも及ぶ学協会、大学関係諸団体、市民団体等から抗議の声明が上がりました。この抗議声明の広がりは、任命拒否問題がいかに常軌を逸した暴挙であることかを物語っています。ところが、政府や自民党は自らの任命拒否の姿勢を改めるどころか、逆に日本学術会議の在り方に問題があるかのような議論にすり替え、日本学術会議に対して自己改革を求めるなどの介入を続けてきました。
 日本学術会議は、国に対して任命拒否の解決を求めつつも、日本学術会議の自己改革の検討を進め、国際的に承認されるナショナル・アカデミー(国を代表する学術機関)としての5要件(①学術的に国を代表する機関としての地位、②そのための公的資格の付与、③国家財政支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考における自主性・独立性)の維持を前提とする改革案を2021年4月に発表していました。
 それを無視して政府が進める日本学術会議法改定は、とりわけ⑤の「会員選考における自主性・独立性」を全否定するものであり、ナショナル・アカデミーとしての日本学術会議の根幹を揺るがします。しかも、当事者である日本学術会議側には何の相談や情報提供もない中で、2022年11月23日にNHKが「日本学術会議改革で法改正へ 第三者委員会設置など明記」と突如報道し、学術会議には総会のわずか2日前に提案するという粗雑な、意思決定のプロセスの上でも極めて問題の多いやり方であり、政府は日本学術会議を一方的に潰しにかかっている、といっても過言ではありません。

 なぜ政府は今、性急な「法改定」に突き進むのでしょうか。それは、大軍拡の戦略遂行には言論の自由、学問の自由、研究の自由を制限し、研究者を軍事研究に動員する必要があるからです。安保3文書には、「官民の先端技術研究の成果の防衛装備品の研究開発等への積極的な活用」や「安全保障分野における政府と企業・学術界との実践的な連携の強化を進める」など、軍学共同のいっそうの推進が明確に打ち出されています。そのために、軍事研究に反対する日本学術会議の存在が障害になっているのです。

 日本学術会議は、前身である学術研究会議が戦争に協力した過ちの反省の上に、1949年に発足しました。日本学術会議が「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない決意の表明」(1950年)、「軍事目的のための科学研究を行わない声明」(1967年)、そしてそれらを継承する「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年)を発出してきた背景には、科学者による戦争協力への反省という戦後日本の学術の原点があります。政府による安保3文書に沿った軍学共同の推進と日本学術会議潰しは軌を一にした動きであり、歴史の過ちを再び繰り返すことに直結します。
 いま、「新しい戦前」と言われる時代、次のすぐそこに迫った戦争で殺人のために使われる武器開発とそれにつながるデュアルユースの研究に協力するのかが、大学・研究機関・企業、そして研究者一人ひとりに問われています。

 私たちは、日本の学術の在り方を大きく歪めることにつながる日本学術会議法改定の策動と法案の国会上程に強く反対します。科学者、学生・院生、市民の皆様には、この問題について関心を持ち、議論をし、反対の声を上げて下さるよう訴えます。