安倍首相が登場して以来の日本の政治情勢は大きく保守化・右傾化へと舵を切り、軍事化路線が進みつつあることは異論がないと思います。日本国憲法が掲げた「非武装平和主義」が、今や「積極的平和主義」と呼び名を変えて、軍備による安全保障の達成が目指されていると言えるでしょう。
その中で学術の世界も無関係ではなく、ご存知のように防衛省からの大学・研究機関等への軍事協力への積極的な働きかけの一つとして、「安全保障技術研究推進制度」という競争的資金制度が創設されました。私たちは、このような状況を「軍学共同」と呼び、学術研究の世界が軍に取り込まれ、軍事研究に動員される端緒になるのではないかと強く懸念しています。この緊急の問題に対し、日本学術会議として総会・各部会・「安全保障と学術に関する検討委員会」等で、さまざまな議論が積み重ねられている最中であると十分承知しています。秋の総会の機会に敢えて日本学術会議会員の皆さまに対し、学術の「原点」に立ち戻ってこの問題に厳正に対応してくださるよう、心より要請致します。
日本学術会議は、1950年の「戦争のための科学研究には従わない声明」、1967年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」と、二度にわたって戦争や軍事目的のための研究を拒否することを誓い、それが日本の学術界の規範となってきました。また、日本学術会議法の冒頭の前文「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」は、1949年の発足以来変わることなく掲げ続けられています。それはまさに学術研究者の「原点」であり、それを守り続けてきたことが広く国民からの支持を得、科学への信頼の源泉となってきたといえるでしょう。
しかしながら、大西日本学術会議会長から「1950年、67年の声明の時代とは環境条件が異なって専守防衛が国是となっているのだから、自衛のための軍事研究は許容されるべき」との論が表明されているように、防衛のため、あるいはデュアルユースを口実として、科学者の軍事研究を解禁しようとの意見が出されています。ところが、現在の政府の方針は専守防衛に留まらず、集団的自衛権の行使容認を閣議決定して、ついに安全保障関連法が成立する事態になりました。では、このような環境変化に応じて、日本学術会議は軍事研究との関わりをさらに変えていくことになるのでしょうか?
私たちは、時代の環境がいかに変化しようと、右に述べた学術研究の「原点」を変えることなく遵守すべきものと考えています。それこそが現代社会を支える科学への社会的信頼の基礎であり、そして学術研究者の矜持として守り続けるべきものと考えるからです。
今ひとたび学術研究の「原点」に立ち戻って、日本学術会議の会員として、軍学共同を毅然として拒否する立場を鮮明にされることを期待します。
2016年10月7日
軍学共同反対連絡会(共同代表:池内 了、野田隆三郎、西山勝夫)