来年度予算閣議決定を受けての軍学共同反対連絡会声明(2016年12月28日発表)

軍事研究費急拡大!軍事国家への道をひた走る安倍政権に反撃を!
             

2016年12月28日 軍学共同反対連絡会

 2017年度予算案が12月22日,閣議決定された。軍学共同に反対している立場から,この予算案に対する私たちの見解を表明する。
 この予算案では,教育・科学振興費は5.3兆円と据え置かれる一方,防衛費は5年連続増加し5.1兆円となった。第3次補正予算案に含まれる防衛費約1800億円を合わせると大幅な軍備増強となる。とりわけ,「安全保障技術研究推進制度」の予算が,今年度の6億円から大幅に増額され,概算要求通り110億円も認められたことに,軍学共同に反対する私たちは強く抗議する。
 この予算案によって,軍事国家への道をひた走る日本が今後,「軍産学複合体」を形成し,国政を大きく歪めていく端緒を開いたと,私たちは見ている。というのは,概算要求とともに防衛省が併せて公表した『防衛技術戦略』『中長期技術見積もり』『将来無人装備に関する研究開発ビジョン』の3つの文書において,今後20年程度を念頭においた防衛技術開発計画が展開されているからである。その実現に向けての第一段階として110億円もの研究開発予算を計上したと考えられるのである。
 この制度は企業に属する研究者からの応募も認めてはいる。しかし,主要なターゲットは大学・研究機関の研究者たちであろう。研究者たちは可能なら,自らの意志で自由に研究テーマを設定でき,成果の発表や公開にも完全な自由が保証される,公的学術支援機関からの研究費によって研究を遂行したいと望んでいることは疑いない。しかし,「選択と集中」政策の下で研究費不足に追い詰められている現状では研究が維持できないとして,「安全保障技術研究推進制度」に手を出す研究者が出てくるであろう。防衛省はこのような研究者たちを狙っているのである。秘密研究となる可能性が高い防衛省の資金に応募して「防衛装備品」(武器)開発の下請け研究に従事するなら,結局のところ日本の軍国主義化に大学・研究機関の研究者たちが加担していくことになるのは必至である。
 併せて,防衛省から委託を受けた産業界の「装備品」(武器)開発研究にも,産学共同という名の下に,大学・研究機関の研究者が従事する方向が展開されていく可能性もある。こうして学術研究の現場である大学・研究機関が「軍産学複合体」へと変質させられていくことを私たちは危惧する。私たちは,110億円の予算を削除し,「安全保障技術研究推進制度」自体を廃止するよう求める。
 今回の予算措置において提示されているのは「1件当たり数十億円で5年継続」という,基礎研究を行なっている研究者にとっては破格の好条件での研究費の供与である。少なくない研究者たちが「科学・技術の発展のため」という大義名分のもと,これに応じていく事態が広まることを,私たちは深く憂慮する。巨額の研究費を餌にする防衛省に利用されるか否か,研究者たちの矜恃と社会的責任が強く問われることを指摘したい。
 目下,日本学術会議において防衛省からの研究資金への対応について議論がなされている。現下の状況に鑑みて日本学術会議に求められるのは,「世界の平和と人類の幸福のための学問」という学術研究の原点を示し,市民からの信頼を裏切らない学術界であることを明確に宣言することである。それは研究費不足で悩む研究者への励ましとなるとともに,現代の知性を代表する学者集団に対する社会的な信頼につながり,軍事大国化に反対する強い意思表示となることは確実である。今,黙したまま,軍事大国化が進行する現状を追認してはならない。学術の府を軍事研究の場にしてはならない。
 私たち「軍学共同反対連絡会」は,市民とともに健全な科学の発展のために尽す所存である。

 私たちは当面,次の3つの取り組みを行う。

 1950年,67年の2度にわたり日本学術会議が発した「軍事目的のための科学研究を行わない」声明を堅持し,防衛省による「安全保障技術研究推進制度」に明確に反対していくことを日本学術会議及び各会員に要請する。日本学術会議に設置された「安全保障と学術に関する検討委員会」はこの間の議論をまとめ,2月4日に市民に開かれたシンポジウムを開催する。そこに多くの市民が参加され,声を上げていくように訴える。

 今後の通常国会での予算案審議の中で,「安全保障技術研究推進制度」110億円の予算の問題点を国会議員と共同して明らかにし,これが日本社会の今後のあり方に関わる大問題であることを多くの市民に訴えていく。またあわせて,貧困な文教予算の問題を浮き彫りにし,科学者が平和と人類の幸福のための本来の研究ができるように,国公私立大学への運営費や補助金増額を求めていく。

 3月から始められる来年度の「安全保障技術研究推進制度」募集に対して全国の大学・研究者が応募しないように働きかける。各界有志による緊急署名運動の呼びかけが進められており,連絡会もそれに全力で取り組む。

軍学共同反対連絡会共同代表 池内了,野田隆三郎,西山勝夫