大阪市立大学への要請(2019年10月18日)

日本科学者会議大阪支部事務局長 山本 謙治

二度の防衛装備庁研究応募・採択に抗議、中止・撤回を要請
 「軍学共同いらない!市民と科学者の会・大阪」は10 月18 日、大阪市大に対して、研究課題が19 年度防衛装備庁の委託研究として採択されたことに対する抗議・要請をおこないました。
 全国で軍学共同反対の動きが強まり、19 年度採択された大学は全国で大阪市大と山口大学の2大学のみとなるなか、この抗議行動には、中央の「軍学共同反対連絡会」から西山勝夫・滋賀県医科大学名誉教授、井原聡日本科学者会議事務局長・東北大学名誉教授の2 氏、「市民と科学者の会」から小林優・大阪革新懇事務局次長、山本謙治・日本科学者会議大阪支部事務局長、大阪平和委員会の吉田一江事務局次長、東田協直常任理事ら7人が赴き、大阪市大側は研究支援課長と研究支援担当係長が応対しました。
 大阪市大の山田裕介教授の研究課題が、2016 年度に続いて19 年度防衛装備庁の委託研究として応募・採択されたことについて厳重に抗議するとともに、①受託契約の手続きを直ちに中止し、応募を撤回すること、 ②同大学で18 年度4 月に施行された審査制度と審査基準を公表すること、を要請しました。
 要請に対する大学側の回答は、審査制度の公表については部長と相談し、改めて回答する。今回の応募については、「大阪市大における研究者および構成員の行動規範」をふまえ、本学の審査要項にもとづき審査委員会が審査し、防衛装備庁への申請を認めた。①「直接的な軍事技術とか防衛装備そのものの研究開発ではない」、②「正当な理由なく研究成果の公開が制限されない」、③「研究の成果・知的財産が出た場合には当然本学に帰属する」、④「研究資金の提供元からの過度な干渉を受けない」、⑤「特定秘密の提供をうけない」の5項目の審査基準にもとづき審査し、「研究成果が民生分野での活用を想定した基礎的な研究」として承認した、というものでした。事前に審査委員会責任者ないしはメンバーの同席を求めていましたが、「要望は伝えたが、担当者からは『お会いしても平行線の話にしかならないので参加はしない』との回答しか得られず、同席はしない」ということでした。
 話し合いの中では、次の6点への回答を求めました。①審査制度と審査委員会について、この間の経緯と、山田教授が2 回応募し、2 回続けて採択されたことをどのように受け止めているのか。②審査委員会のメンバーや運営方法はどうなっているのか。③防衛省からの研究資金を審査委員会メンバーはどのように受け止めているのか。 ④山田教授の研究は独自研究なのか、学生を巻き込んだ研究なのか、学生にはどのように説明しているのか。⑤山田教授含め審査委員会メンバーと話しあう機会が持てるように計画してほしい。 ⑥「軍事研究に加担しな
い」ということが審査委員会の中で明確に出されたことがあったのかどうか。
 これに対する研究支援課長の回答は、 ①何度も話し合ってきたが平行線で今後続けたとしても打開の道は開かれそうにない。 ②防衛省の研究費を受けることが、そんなに悪い事とは思わない。③大学の資金が抑えられており、外部資金を活用せざるを得ない。④審査制度や審査基準については隠すものでもないので上司に確認して示す。 ⑤皆さんの話は防衛省資金ということで、入り口でストップをかけている。検討の余地がないのでは…というものでした。
 「研究費不足の解消のためならどんな資金でも入手する姿勢について、山田教授のもとで研究に参加する学生や院生にどのように説明するのか、大学としてどう説明するのか」教育機関としての基本姿勢を問う意見に対して、回答ができない場面もありました。


「そのまま外部に公表しない」を条件に「審査要項」文書を回答
 11 月初旬、私たちの要請に応え、大阪市大の研究支援課長から、市民と科学者の会・大阪あてに、「大阪市立大学外部資金の受け入れにおける安全保障技術研究の取り扱いにかかる審査要項」(以下「審査要項」とする)、「審査要項」を決定した教育研究評議会記録2 通、「大阪市立大学憲章」「大阪市立大学人権宣言2001」の文書が郵便で届けられました。「審査要項」以外の文書は同大学ホームページで公開されているものですが、「審査要項」は内規であり外部へは非公開となっているため、「そのまま外部に公表しない」条件付きでの提供で
した。非公表という制約下で、大阪市大の「審査要項」についての見解を述べ、今後の同大学との話し合い継続への問題提起としたいと考えます。
 大阪市大では、すでに2016 年度の防衛装備庁委託研究に応募し採択され、3 年間の契約が終了し、引き続き2019 年度、2 度目も応募・採択されました。この2 度目の応募については、2018 年度に定めた「審査要項」にもとづき審査し、申請を承認し、採択されたのです。
 すなわち、大阪市大が定めた「審査要項」とは、2016 年度の応募・採択を反省することなく、2017 年の日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」の「(研究の)適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべき」という提言にこたえ、防衛装備庁からの外部資金提供を受け入れることが可能な審査制度、審査基準を定めたものです。
 実際、防衛装備庁からの外部資金提供を受けるか否かの判断するための確認事項として、「直接的な軍事技術、防衛装備品そのものの研究開発ではないこと」(研究支援課長がことさら「直接的でない」「そのものでない」と強調した)と明記しており、この度(2019 年度)の応募に対して、防衛装備庁が「防衛分野での将来における研究開発に資することを期待」していることを承知しながら、審査委員会は「直接的な軍事技術、防衛装備品の研究ではない」「民生分野での活用を想定した基礎的な研究」と判断し、あえて防衛装備庁委託研究への応募を承認したのです。これでは、「審査要項」を防衛装備庁からの外部資金提供を受け入れるアリバイづくりの道具にしたと言われても仕方ないでしょう。

「平和・自由・平等」「人類の幸福と発展に貢献」する大阪市大に
 今後の話し合いを続けるには、「他の大学はどうかということではなく、本校が決めたやり方で、決定したことであり、その説明は何度でも行う」という事務方との話し合いではなく、審査委員会の責任者(メンバー)、山田教授本人との面談が必須であり、面談の場の設定を強く求めるものです。
 同大学で行われた2018 年1月19 日の教育研究評議会での審議において、法学研究科評議員より、「防衛装備庁が公募する安全保障技術研究制度など、軍事的安全保障のための技術開発を目的とする研究助成等については、申請及び受入の対象から一律に除外すべき」との意見が出されたことが記されています。
 私たちが求めているのは、「いくらやっても平行線」という話し合いではなく、共に学問と科学、研究を行うもの同士としての、二度と「戦争を目的とする科学の研究は行わない」あり方・実践のための真摯な、そして具体的な話し合いです。
 「審査要項」の詳細を公表することができないため、その内容への詳細な批判的見解を述べることはできませんが、審査における5つの確認事項は、防衛装備庁からの資金提供を受けるための言い訳作りにしか使われていません。「デュアルユース」そのものが、研究を軍事転用することを前提にした議論のたて方であり、「現時点で直接の軍事研究ではない」ことをどう説明しても、それが軍事研究に与しないとする理由にはなりません。
 また、「どんな研究でも、軍事転用される可能性はある」からといって、「初めから軍事転用を目的とする資金提供を受ける」ことを是とすることにはなりません。むしろ、だからこそ、研究者として「平和・自由・平等を求め、人権を尊び、不正義や差別を廃する、という学内に培われてきた基本姿勢を尊重し、この基本姿勢の継承とさらなる強化をめざす」という同大学のめざすべき立場に立ちち、「研究成果は、時に科学者会議の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」という日本学術会議声明の本旨を生かし、「防衛装備庁が公募する安全保障技術研究制度など、軍事的安全保障のための技術開発を目的とする研究助成等については、申請及び受入の対象から一律に除外すべき」ことを明確にするべきです。
 私たちは、大阪市立大学が、「研究資金難の解決のためならどんな資金にでも手を出す」ことを是とする現在の姿勢を断ち切り、研究費削減と教育環境破壊を続ける現在の政府と大阪府市の政策にその原因があることを明確にし、「学問の自由と大学の自治を自覚しつつ、大学の普遍的使命である真理の探究と、都市を背景とした学問の創造をめざし、これら理念のもとで、直面する社会状況に対応した諸課題に積極的に取り組み」「人類の幸福と発展に貢献するため、さまざまな分野において指導的役割を果たし、社会で活躍する人材を育成すること」(大阪市立大学憲章)を強く期待しています。
 その思いを伝え、広め、共有しあい、大阪市立大学が自ら定めた大学憲章を実践する大学に立ちもどることを求め、今後も取り組みを継続していきます。


大阪市立大学への抗議・要請行動に参加して

軍学共同反対連絡会幹事 井原 聰(東北大学名誉教授)

同一人が二度目の採択
 午前11 時に抗議・要請文を日本科学者会議大阪支部の山本謙治支部事務局長が朗読し文書を手渡してからはじまり約1時間半ほどの会談をしました。採択された大阪市立大学の山田祐介さんは2016年度の研究課題「吸着能と加水分解反応に対する触媒活性を持つ多孔性ナノ粒子集合体」に引き続く、「拡張された細孔をもつ配位高分子を利用した有機リン化合物の検出」という研究課題で全国でも例のない2度目の採択となりました。この研究は防毒マスクや毒ガスの研究に親和性が高いと考えられます。それは第一次大戦にはじまり、アメリカ軍がベトナム戦争で農薬と称して枯葉剤を大量に散布し、オーム真理教がサリン事件を引き起こしたことでも知られる分野でもあります。

軍事研究ではないので認められた
 軍学共同連絡会の行動で私は東京農工大学、東京工業大学、JAXA、岡山大学、(防衛省)と参加しましたが、どの大学も「軍事研究ではないので認めた」と主張し、審査会で審査したところ、審査会を設置せず、担当理事が判断したところなど種々ありました。大阪市立大学では「審査委員会」が設置され、審査して認めたとはいうものの、審査委員会がどのように設置され、どのような議論がなされたのかについて、明らかにされることはありませんでした。それどころか、課長さんは激昂し私たちの意見を度々遮り「そんなことを知ってどうするんですか」「あなた方は、抗議にもあるように、そういう研究をやめなさい、というわけでしょう。平行線でしかないですよね。そんなことを知ったって結論が
変わるわけではないでしょう」と繰り返し主張したことが大きな特徴でした。
 西山勝夫さん(連絡会幹事)が大学の説明責任の意義、研究者たる教員の社会的責任、大学の自治など懇切丁寧に説明し、話し合いの必要性や意義を述べたにもかかわらず、「平行線」の立場を変えようとしませんでした。採択された先生の研究室の学生には大きな影響があるはずで、学生にどのように説明してきたのか(するのか)と問われて、黙ってしまったのが印象に残りました。

将来、軍事研究に使われることを承知で
 大阪市立大学では「大阪市立大学における研究活動に関する研究者及び構成員行動規範」(2015 年4 月1 日理事長決裁)(かつて日本学術会議が提起したデュアル・ユース論に関わって提起した行動規範と同内容)にしたがってやっている。特に6項が判断基準だという。その第6 項には「研究者は、自らの研究の成果が、研究者自身の意図に反して、破壊的行為に悪用される可能性もあることを認識し、研究の実施、成果の公表にあたっては、社会に許容される適切な手段と方法を選択する。」(日本学術会議声明「科学者の行動規範」(2013 年1 月25
日改訂に準拠)とあります。
 「悪用される可能性」があっても研究の実施、成果の公表にあたって、社会に許容される適切な手段と方法を選択すればよいというのです。これはバイオテロを想定した研究利用の両義性の文言なのですが、破壊的行為に悪用される可能性があっても研究は禁止しないと読んでいるようです。
 また「科研費で同様の研究が行われたらあなた方は軍事研究と言わないのでしょうが、それはおかしい」ともしきりに主張していましたが、研究資金の出どころでセーブする必要性については耳を貸さず、「大阪市立大学は研究資金の出どころで判断せず、軍事研究でなければ認める」を繰り返していました。
 ところで、課長さんは「防衛省の研究であるから、将来軍事に使われることを認識した上で、認めたもの」という驚くべき発言をされた。こうした開き直った発言は、国立系の職員ではありえないのではないかと思いました。大阪市立大学で、この職員は単なる窓口以上の役割を果たしているのだろうか、とさえ思ったほどでした。もっとも、大西隆日本学術会議元会長はかつて「防衛研究は必要」と述べていたことを思うと、この課長さんの発言はかなり婉曲な表現といえます。
 「審査委員会」がつくられたとのことでしたので、それは内規なのかとの西山さんの問いに、内規であり、規程より低いものという答えが返ってきました。しかし、その審査委員会の正式名称はどういうものかという問いにはすぐには答えられず、係長が「内規」と思われる文書を取りに行って、ようやく、「安全保障技術等審査委員会」であると知れました。「等」とついている意味は何かと
問うと、企業との共同研究のようなものに対する審査ではないとしつつも、「等」とは何かを説明することができませんでした。私は「等」とは米軍(DARPA)などの資金をも射程にいれているのではないかと考えてみたりしています。
 最後に、内規や審査委員会の公開を強く要請し、今後とも話し合いを続けていきたい旨を山本さんが主張し会談を終えました。

軍学共同反対ニュースレター No. 39 (2019年12月31日発行)より転載