「軍学共同」に関わる学術会議の検討委員会についての見解(筑波研究学園都市研究所・大学関係9条の会,2016年8月13日)

防衛省が発足させた「安全保障技術研究推進制度」に関わって、日本学術会議は大西隆・会長の提案により「安全保障と学術に関する検討委員会」を設け検討を開始しています。提案では“個別的自衛権”を掲げ、国の“安全保障に寄与する”ことを要請し、“軍事研究に係る行動規範”の策定を促しています。また、軍事研究成果の利用における“善用と悪用”(デュアルユース)を示唆しています。(2016.7.27毎日新聞寄稿)
なお、大西隆氏は日本の科学技術政策に深く関わっている総合科学技術・イノベーション会議(議長:安倍総理大臣)の議員も兼ねていることを指摘する必要があるでしょう。

日本学術会議はその創設(1949)に当たり、日中太平洋戦争の間に科学者がとった態度について強く反省し、「人類の平和のため学術の進歩に寄与すること」、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わないこと」を決意表明しました。その後、第6回総会(1950)でも「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」決意の表明(声明)、さらに、第49回総会(1967)では「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を表明しています。これらの声明は、今でもその重要性を失っていません。

大西会長は“自衛目的に限定”した兵器研究と主張していますが、自衛のみという兵器は成り立たず、軍事研究は必然的に大量破壊・大量殺戮兵器開発に行き着きます。科学者・技術者が殺傷・破壊兵器に手を染めることは決して許されることではありません。「集団的自衛権容認」を閣議決定し、「日米軍事協力指針改定(新ガイドライン)」に応じて「安全保障法制(戦争法)」を強行採決した状況下では一層明白です。一方、“学術会議声明を堅持し”とも述べていますが、これは明らかに欺瞞としか受け取れません。軍事研究は第一に戦争目的に叶う成果を求めるもので、これにデュアルユースとして“善用と悪用”という概念を当てることは、本質を歪曲し議論を誤りに導くものと言えるでしょう。

軍事研究が科学の新しい概念を生み、新しい展望を拓いたことはありません。また、軍事研究を否定すれば科学研究を阻害すると考えることは誤りです。逆に、軍事研究はその本性から研究の自主性を損ない、成果の公開を制約します。そして多額の軍事研究費は一般科学研究費を圧迫し、その発展を阻害します。われわれは戦後一貫して研究成果の軍事利用を否定し、それに厳しい監視の目を持ち、軍事研究と関わることを禁じてきました。原子力研究における「平和利用三原則:研究の民主的な運営、日本国民の自主的な運営、一切の情報の完全公開(声明)」を表明しました。この声明は、今でも原子力研究のみならず全ての研究において、研究者の規範となっていることを改めて銘記しなければなりません。

日本国憲法の下、われわれは世界の諸国民と互いの信頼を築き、世界の平和に寄与したと自負しています。国の平和と安全を守り、国民の生活を豊かにし、福祉を達成する途は憲法に反する軍事同盟、それを支える「戦争法」のもとにはありません。世界諸国民と共に、いかなる軍事同盟に組することなく、世界の平和に寄与する安全保障の強化を図ることこそ、我が国の安全を保障するものと考えます。

研究者・技術者を軍事研究に組み入れようとする防衛省の企てに対して、日本学術会議「検討委員会」は、これまでの規範となる声明を再確認することこそが望まれることです。これらの声明を見直すことは、学術会議の存在を否定することに繋がります。科学研究の基本に立ち返り、真理の探究と人類の福祉に貢献すし、成果の悪用に加担せず、市民社会の一員として責任を果たすことこそ、真に求められます。

筑波研究学園都市研究所・大学関係9条の会
第107回世話人会/2016年8月13日