科学・技術が戦争に利用されないよう,軍学共同研究に反対する声明(地学団体研究会,2016年8月23日)

現政権は「積極的平和主義」の名のもとに,安全保障関連法の強行など,平和憲法の理念を破壊する動きを強めている.そうした中で懸念すべきこととして,近年,軍学共同研究の動きが急展開を見せている.防衛省は2015年度より,「安全保障技術研究推進制度」に基づく競争的資金の公募を開始した.この制度は,防衛省から提示されたテーマに基づき,大学・研究機関等の研究者からの提案を受け付け,防衛省の予算を配分するものであり,民生利用可能(デュアルユース)な技術であることと,成果の原則公開などを標榜している.

科学・技術の成果は民生分野だけでなく,法的規制がない限り軍事分野にも利用されていることは,技術というものの属性である.しかし,ここで言われるデュアルユース技術は,軍事研究に誘いこむために,将来的には民生にも役立つ技術になるかもしれないという程度の意味で使われており,基本は軍事研究である.それは,防衛省をクライアントとし,防衛省の資金で行われる研究であることからも明らかである.また,学術は人類全体に奉仕すべきものであり,本来的に成果の公開は当然のものである.しかし,本制度では,契約期間中の成果の公表に事前の届け出と協議が求められ,国防上の機密保持を理由とした成果の囲い込みに道を残している.参加した研究者は,自らの研究が機密研究となることを,自らの意思のみで拒絶することはできない.

戦後,我が国の学術界では,多くの科学者が戦争に協力させられた痛切な反省にたち,軍事研究を絶対に行わないという決意を表明してきた.たとえば日本学術会議は,「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」(1950年),「軍事目的のための科学研究を行わない声明」(1967年)を提出してきた.しかし,現在進められている軍学共同の制度は,先に述べた「デュアルユース技術」と「成果の原則公開」という欺瞞に満ちた表現により,研究者の正常な良心に根ざす抵抗感をごまかそうとしている.そうした中,多くの大学で経常的な研究費の確保が困難になっている現状も背景として,制度の初年度である2015年は109件もの応募があり,大学4件を含む9件が採択された.まさに大学の自治や学問の自由に対する重大な危機が叫ばれる中で,2年目となる2016年では応募数が44件と激減した.これは,「軍学共同反対アピール署名」など軍学共同の危険性を広く伝え行動してきた運動が一定の功を奏したことと,昨年来,全国を大きく揺るがした「安全保障関連法案」反対の運動も,研究者たちに大きな影響を与えたであろうと考えられる.また,一部全国メディアや地方紙の誠実な報道も,科学者・大学人に今ひとたび熟考する機会を与えたことも推定され,軍学共同の危険な側面が広く社会に認識されつつある成果と見なすことができる.

地学団体研究会は創立時より,戦争に科学が使われないようにすることを目的のひとつに掲げてきた.特に1987年広島総会の「平和宣言」では科学の平和利用を世に誓い,2015年糸魚川総会では安全保障法案と大学・研究機関による軍事研究に反対する総会声明を採択した.我々はあらためて学術の存在意義に関わる大局に立ち,あらゆる科学・技術が戦争に利用されないように努力することを誓う.また,大学・研究機関に所属する大学院生・学生に決して軍事研究に従事させないことを誓う.そのために,平和を愛する幅広い市民や研究者に,ともに連帯・連携してこの課題に取り組むことをよびかける.

 

2016年8月20日
第70回地学団体研究会総会(小川町)